棚卸を実施する一般的な時期
棚卸の実施時期には、法律上の明確な定めはありません。しかし、多くの企業が決算日の1ヶ月前から1週間前までに実施しているのが実情です。
実施タイミングは企業ごとに自由に設定できますが、経営判断の精度を高めるために定期的な実施が推奨されています。ここでは、一般的な棚卸の実施時期を3つのパターンに分けて紹介します。
- 決算時期に合わせて実施
- 定期的な実施(毎月・四半期)
- 随時実施(必要に応じて)
決算時期に合わせて実施
決算前の棚卸は、企業にとって最も基本的な実施タイミングです。決算書に記載する期末棚卸高を正確に算出するためには、決算日直前の在庫数量と状態を把握しなければなりません。
日本企業の多くは3月決算を採用しており、3月中旬から下旬にかけて棚卸を実施するケースが目立ちます。12月決算の場合は年末に、6月決算であれば6月末に実施するという具合に、決算月に合わせた棚卸が基本となります。
なお、決算期には経理業務も繁忙期を迎えるため、棚卸作業を決算日の数日前に完了させておくことが重要です。在庫数に差異が見つかった場合の調査・修正時間も考慮して、余裕を持ったスケジュールを組む必要があります。
定期的な実施(毎月・四半期)
年1回の決算棚卸だけでなく、毎月や四半期ごとに定期的な棚卸をおこなう企業も増えています。月次決算を導入している企業では、毎月末に棚卸を実施することで正確な原価計算と利益把握が可能となります。
定期的な棚卸には、在庫差異の早期発見というメリットがあります。年1回の棚卸では、差異が発生した原因の特定が困難になりがちです。一方で、毎月または四半期ごとに実施すれば、問題発生時点に近い段階で対処できます。
小売業やスーパーマーケットなど、商品の入れ替わりが激しい業種では月1回の棚卸が一般的です。在庫回転率の高い業種ほど、短いサイクルでの実施が求められる傾向にあります。
随時実施(必要に応じて)
決算や定期的なスケジュールとは別に、必要に応じて臨時の棚卸をおこなうケースもあります。在庫差異が疑われる場合や、新システム導入時、倉庫移転時などには、状況に応じた臨時棚卸が有効となります。
循環棚卸は、全在庫を一度に数えるのではなく、エリアや商品カテゴリごとに分割して順番に棚卸を進める方法です。この方法であれば営業を止めずに実施できるため、EC事業者や通販倉庫など、業務停止が難しい業態で採用されています。
ただし、循環棚卸は入出庫が発生する環境でおこなうため、カウントの重複や漏れが起きやすい点に注意が必要です。日常的な在庫管理の精度が高い企業でないと、十分な効果を得られない可能性があります。
自社に最適な棚卸時期の決め方
棚卸の最適な実施時期は、企業によって異なります。在庫の量や特性、人員体制、業種、繁閑状況など、さまざまな要素を総合的に判断して決定することが重要です。
一律のルールに従うのではなく、自社の実情に合わせた時期と頻度を設定することで、棚卸業務の効果を最大化できます。ここでは、最適な棚卸時期を決めるための4つの判断基準を解説します。
- 在庫数・商品特性から判断する
- 人員体制から判断する
- 業種・業態から判断する
- 繁閑状況から判断する
在庫数・商品特性から判断する
取り扱う在庫の数量と商品特性は、棚卸頻度を決める重要な要素です。在庫量が多い企業では、年1回の棚卸に集中すると膨大な作業量となり、ミスが発生しやすくなります。
定期的に棚卸をおこなえば、1回あたりの確認対象が限定され、作業精度の向上が期待できます。とくに取扱商品が数千から数万点に及ぶ場合は、四半期ごとや毎月の実施を検討しても良いでしょう。
とくに、賞味期限のある食品や医薬品を扱う業種では、より頻繁な棚卸が必要です。期限切れ商品の早期発見と適切な廃棄処理のために、月1回程度の実施が望ましいとされています。商品の劣化リスクが高いほど、短いサイクルでの管理が求められます。
人員体制から判断する
棚卸作業に投入できる人員の数も、実施時期を決める上で考慮すべきポイントです。少人数の企業では、年1回に全員で集中して実施するか、担当者を決めて毎月少しずつ進めるか、どちらかを選択することとなります。
反対に大人数を動員できる企業であれば、決算期に一斉棚卸を実施しても短時間で完了させることが可能です。一方、人員が限られている中小企業では、通常業務と並行しながら分散して実施するスタイルが現実的な選択肢となります。
棚卸作業のために休日出勤や残業が常態化している場合は、実施頻度の見直しや効率化ツールの導入を検討すべきです。従業員の負担が過度になると、作業の質が低下してミスが増える悪循環に陥る恐れがあるため、負担を考慮しながら頻度を検討しましょう。
業種・業態から判断する
業種によって、棚卸の最適な頻度は大きく異なります。小売業や飲食業のように在庫の動きが激しい業種では、月1回以上の棚卸が一般的となっています。
製造業では、原材料・仕掛品・完成品と複数の在庫形態が存在するため、管理が複雑になりがちです。工程ごとに棚卸のタイミングを変えるなど、業務フローに合わせた柔軟な対応が求められます。
EC事業者やネット通販を手がける企業は、受注から出荷までのスピードが求められるため、循環棚卸との併用が有効です。営業を止めずに在庫精度を維持する仕組みを構築することで、顧客サービスと在庫管理の両立が図れます。
繁閑状況から判断する
事業の繁閑サイクルを考慮して、棚卸時期を設定することも重要です。繁忙期に棚卸を実施すると、通常業務に支障をきたすだけでなく、作業の精度も低下するリスクがあります。
アパレル業界であればセール前後を避ける、飲食業であれば週末や祝日を避けるなど、業種ごとの繁忙期を把握した上でスケジュールを組む必要があります。閑散期を有効活用することで、十分な時間と人員を確保できます。
ただし、決算日が繁忙期と重なる企業では、決算棚卸を避けることは難しいケースもあります。そのような場合は、決算前の一定期間に在庫の入出庫を最小限に抑える運用ルールを設けるなどの工夫が有効です。
棚卸頻度別のメリット・デメリット
棚卸の実施頻度は、年1回から毎月まで幅広い選択肢があります。頻度を高めれば在庫管理の精度は向上しますが、その分の人的コストや時間も必要となります。
自社に最適な頻度を判断するためには、各頻度のメリットとデメリットを理解した上で、バランスの取れた選択をすることが大切です。ここでは、代表的な3つの頻度について詳しく解説します。
- 年1回実施の場合
- 毎月実施の場合
- 四半期ごと実施の場合
年1回実施の場合
年1回の棚卸は、多くの企業で採用されている最も基本的なパターンです。主に決算期に合わせて実施され、法令上の最低限の要件を満たす形となります。
| 項目 | 内容 |
| メリット | 人的コスト・時間コストが最小限で済む。棚卸作業に伴う業務停止が年1回で完結する。 |
| デメリット | 在庫差異の発見が遅れ、原因特定が困難になる。年間を通じた在庫精度が低下しやすい。 |
年1回の実施では、棚卸と棚卸の間に発生した問題を見逃すリスクが高まります。仮に差異が発見されても、1年分の取引を遡って原因を調査するのは現実的に困難です。そのため、年1回の実施は在庫管理の精度よりもコスト削減を優先する場合や、在庫量が少ない企業に適した頻度といえます。
毎月実施の場合
毎月の棚卸は、在庫管理の精度を最も高く維持できる頻度です。月次決算を導入している企業や、在庫の動きが激しい業種で採用されています。
| 項目 | 内容 |
| メリット | 在庫差異を早期に発見でき、原因特定が容易。月次での正確な原価計算・利益把握が可能。 |
| デメリット | 毎月の作業負担が発生し、従業員の疲弊につながる恐れがある。コストが増加する。 |
毎月の棚卸により、問題発生から短期間のうちに対処できるメリットは大きいものの、作業負担との兼ね合いを考慮しなければなりません。デジタルツールやバーコードスキャナーを導入して作業を効率化できれば、毎月実施のハードルは大きく下がります。
四半期ごと実施の場合
四半期ごとの棚卸は、年1回と毎月のちょうど中間に位置するバランス型の頻度です。年4回の実施で、一定の在庫精度を維持しながらコストを抑えられます。
| 項目 | 内容 |
| メリット | 適度な頻度で在庫精度を維持できる。年1回よりも差異発見が早く、毎月よりも負担が少ない。 |
| デメリット | 3ヶ月分の差異が蓄積される可能性がある。業種によっては不十分な頻度となる場合も。 |
四半期ごとの実施は、多くの業種においてコストと効果のバランスが取れた選択肢です。半期ごとや四半期決算をおこなっている企業では、決算スケジュールとも整合性が取りやすい点もメリットとなります。まずは四半期から始めて、必要に応じて頻度を調整するアプローチも有効です。
棚卸業務の時期選びで起こりがちな課題
棚卸の時期や頻度を決める際には、理想と現実のギャップに直面することが少なくありません。「頻度を増やしたいが人手が足りない」「1回の作業に時間がかかりすぎる」といった課題を抱える企業は多いものです。
これらの課題を放置したまま棚卸を続けると、作業品質の低下や従業員の疲弊を招き、本来の目的である正確な在庫把握から遠ざかってしまいます。ここでは、棚卸の時期選びで起こりがちな3つの課題について解説します。
- 頻度を増やしたくても人手が足りない
- 1回の棚卸にかかる時間や手間が多い
- 棚卸とほか業務の負担によりミスが増える
頻度を増やしたくても人手が足りない
棚卸の頻度を増やしたいと考えていても、人員不足がボトルネックとなっているケースは非常に多いです。とくに中小企業や少人数の現場では、通常業務と棚卸作業の両立が難しく、頻度を高められない状況に陥りがちです。
棚卸作業には一定の人数が必要であり、カウント担当と記録担当をペアで配置することが精度向上には望ましいとされます。しかし、十分な人員を確保できなければ、作業が一人に偏り、チェック機能が働きません。
人手不足の解消策としては、アウトソーシングの活用やパート・アルバイトの増員が考えられます。ただし、外部人員は商品知識や作業手順の習熟に時間がかかるため、即効性には期待できない点に注意しましょう。
1回の棚卸にかかる時間や手間が多い
手作業やExcelでの棚卸は、時間と手間がかかるだけでなく、ミスも発生しやすいという問題があります。在庫を目視でカウントし、紙に記録し、後からシステムに入力する従来の方法では、作業効率に限界があります。
1回の棚卸に数日を要するような状況では、頻度を増やすことは現実的に困難です。また、長時間の作業は従業員の集中力低下を招き、カウントミスや記録漏れの原因となります。
倉庫内の整理整頓が不十分な場合も、棚卸作業の長時間化を招く要因です。商品の配置がバラバラで、同じ商品が複数の場所に分散していると、カウントに余計な時間がかかるだけでなく、数え忘れのリスクも高まります。
まずは時間がかかる要因を特定し、それに対して適切な対策をとって行く必要があります。たとえば、アナログな手法が問題ならDXツールの導入を、倉庫の整理整頓に問題があれば、一度倉庫の整理を実施して効率的な棚卸ができる環境を整えましょう。
棚卸とほか業務の負担によりミスが増える
通常業務に加えて棚卸作業が重なると、従業員の負担が増大し、結果としてミスが増加します。疲労による注意力の低下は、棚卸作業の精度が下がるよくあり原因のひとつです。
とくに決算期は、経理部門を中心に多くの業務が集中する時期です。そこに棚卸作業が加わると、どちらの業務も中途半端になりかねません。棚卸で発見された差異の調査に追われ、決算作業が遅延するケースも珍しくないものです。
ミスの増加は、再カウントや修正作業を生み出し、さらなる時間と労力の浪費につながります。この悪循環を断ち切るためには、作業の効率化やシステム導入による省力化が不可欠です。
棚卸業務はWMSとの併用で短時間でミスなく実施できる!
棚卸業務の課題を根本的に解決するためには、WMS(倉庫管理システム)の導入が有効です。WMSは入荷から出荷、在庫管理、棚卸までを一元的に管理するシステムであり、倉庫業務全体の効率化を実現します。
WMSを活用することで、バーコードスキャンやハンディターミナルによる迅速かつ正確な在庫カウントが可能になります。手作業による目視確認や紙への記録が不要となり、作業時間の大幅な短縮とヒューマンエラーの削減が期待できます。
導入企業の中には、従来2〜3日かかっていた棚卸作業が1日で完了するようになった事例もあります。リアルタイムで在庫データが更新されるため、日常の在庫管理精度が向上し、棚卸時の差異自体を減少させることが可能です。
また、WMSは在庫のロケーション管理や先入れ先出しの徹底にも役立ちます。賞味期限管理が必要な食品業界や、ロット管理が求められる製造業においても、高い効果を発揮するシステムです。初期導入コストは発生しますが、長期的な業務効率化と人件費削減を考えれば、十分な投資対効果が得られます。
まとめ
棚卸の実施時期は、決算スケジュール、在庫特性、人員体制、業種、繁閑状況など、複数の要素を考慮して決定する必要があります。年1回の決算棚卸だけでなく、四半期や毎月の定期実施により、在庫管理の精度向上と問題の早期発見が可能となります。
頻度を高めればメリットは増えますが、人的コストや作業負担との兼ね合いも重要です。自社の実情に合った頻度を選択し、無理のない形で継続することが、棚卸業務を成功させるポイントです。
手作業による棚卸に限界を感じている場合は、WMSなどのデジタルツール導入を検討してみてください。作業時間の短縮とミス削減を同時に実現し、より戦略的な在庫管理へとステップアップできます。

















