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棚卸のごまかしはなぜ起こる?発生理由から防止策まで企業が知るべき対策を解説

2025.12.23

倉庫業務・管理

企業がおこなう棚卸作業において、意図的に数値を操作する「ごまかし」は決して珍しい問題ではありません。在庫を扱う事業者であれば、業種や規模を問わず発生するリスクがあります。軽微な行為に思えるかもしれませんが、放置すれば企業経営の根幹を揺るがす事態へと発展する恐れがあります。

本記事では、棚卸のごまかしがなぜ起きるのか、その背景にある動機から具体的な手口、企業が被るリスク、そして効果的な予防策までを詳しく解説します。在庫管理体制の見直しを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

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棚卸のごまかしとは?

棚卸とは、倉庫や店舗にある商品・原材料などの在庫を実際に数え、帳簿の記録と照らし合わせる作業を指します。決算時の利益計算や適切な在庫管理のために必要不可欠な業務ですが、この作業において故意にデータを改ざんする行為が「棚卸のごまかし」です。

具体的には、実際には存在しない商品を帳簿上に記載したり、逆に実在する在庫をカウントから外したりといった操作がおこなわれます。また、破損品や不良品を正常な商品として計上するケースもあります。これらはカウントミスや記録の誤りといった過失とは本質的に異なり、何らかの目的を持っておこなわれる意図的な行為である点が重要です。

こうした問題は特定の業界に限った話ではなく、小売店から製造業、卸売業まで、在庫資産を保有するあらゆる企業において起こり得ます。経営者や管理者は、自社でも発生する可能性があるという認識を持つことが大切です。

棚卸のごまかしが発生する主な理由

なぜ企業や従業員は棚卸のごまかしに手を出してしまうのでしょうか。その背景には、組織的な圧力から個人の保身まで、複数の要因が絡み合っています。予防策を講じるうえでは、まずこれらの発生原因を把握しておく必要があります。

ここでは、代表的な4つの理由について詳しく見ていきます。

  • 業績の粉飾
  • 税金の節減
  • 内部不正の隠蔽
  • 作業ミスの隠蔽

業績の粉飾

経営状態が思わしくない企業が、外部に対して業績を良く見せかけようとする際に棚卸のごまかしが利用されることがあります。この場合、期末時点の在庫金額を実態よりも多く申告するのが典型的なパターンです。

会計上、期末在庫が増えると売上原価が下がり、結果として利益が大きくなったように見えます。この仕組みを悪用して、銀行からの融資審査を有利に進めたり、株主や投資家に好印象を与えたりすることが狙いです。

ただし、こうした粉飾決算は法律で厳しく禁じられており、発覚した場合は経営陣の刑事責任が問われる可能性があります。過去には上場企業が架空在庫の計上によって粉飾をおこない、上場廃止に追い込まれた事例も存在します。

税金の節減

納税額を不正に抑えようとする目的で、棚卸数値を操作するケースも見られます。粉飾とは反対に、この場合は期末在庫を実際よりも少なく報告することです。

期末在庫が減少すると売上原価は増加するため、帳簿上の利益は小さくなります。これによって法人税などの課税所得を圧縮し、本来支払うべき税金を逃れようとするわけです。専門用語では「棚卸除外」と呼ばれることもあります。

このような行為は明確な脱税であり、税務調査によって発覚すれば本税に加えて延滞税や加算税が課されます。特に悪質と判断された場合には、本税の35%から40%もの重加算税が上乗せされるうえ、青色申告の承認取消しや刑事告発といった厳しい処分を受ける可能性もあります。

内部不正の隠蔽

従業員が会社の商品を無断で持ち出したり、現金を着服したりした場合、その痕跡を消すために棚卸データが改ざんされることがあります。帳簿と実在庫の数字を合わせることで、横領の事実が表面化しないようにするのが狙いです。

2024年には、中古品買取を手がける大手企業グループにおいて、複数店舗で従業員による不正が相次いで明るみに出ました。架空の買取処理をおこなって現金を不正に取得したり、在庫数を操作して帳簿との差異を隠したりといった手口が報告されています。多くの店舗を展開する企業では、本部から各拠点の実態を把握しにくいため、こうした問題が発生しやすい環境にあります。

いくら帳簿上の数字を取り繕っても、監査や抜き打ちの実地棚卸、税務調査などをきっかけに不正は発覚します。発覚時には、関与した従業員の懲戒処分や刑事告訴だけでなく、企業全体の管理体制が問われることになります。

作業ミスの隠蔽

棚卸作業中に発生したカウントミスや入力誤りを隠すために、帳尻を合わせる形でデータを操作するケースもあります。「ちょっとした間違いだから」「報告すると評価に響くから」といった心理が働き、結果的にごまかしへとつながってしまいます。

一つ一つは小さな問題であっても、こうした行為が繰り返されると在庫管理の精度は著しく低下します。また、「少しくらいなら改ざんしても大丈夫」という空気が職場に広がれば、より深刻な不正行為を誘発する土壌にもなりかねません。

ミスは誰にでも起こり得るものです。重要なのは、ミスを隠さず報告できる職場環境を整え、再発防止に向けた仕組みを構築することです。

棚卸のごまかしで生じる問題とリスク

棚卸のごまかしを「些細なこと」と軽く見てはいけません。この行為は、企業活動のさまざまな側面に悪影響を及ぼし、最悪の場合は事業継続すら危うくする重大なリスクを含んでいます。

以下では、企業が直面する可能性のある4つの深刻な問題について説明します。

  • 在庫管理の現場の混乱
  • 財務報告の信頼低下
  • 法的リスク
  • 企業の信用失墜

在庫管理の現場の混乱

棚卸データが実態と乖離すると、日々の在庫管理業務に大きな支障が生じます。帳簿上は在庫があるはずなのに実際には欠品している、あるいはその逆で過剰在庫を抱えてしまうといった事態が頻発するようになります。

このような状況では、顧客への納品遅延や機会損失、保管コストの増大など、業務効率の低下が避けられません。さらに、ごまかしの事実が判明した際には原因調査や是正作業に多大な労力を費やすことになります。

職場内での信頼関係にも悪影響が及びます。「誰かが不正をしているのではないか」という疑念が広がれば、チームワークは崩壊し、従業員のモチベーションも大きく損なわれます。

財務報告の信頼低下

在庫は企業の総資産において大きな割合を占めることが多く、その数値が不正確であれば決算書全体の信頼性が失われます。売上原価や粗利益、純利益といった重要な経営指標が実態を反映しなくなるためです。

誤った財務情報に基づいて経営判断を下せば、投資計画や人員配置、資金調達などあらゆる面で失敗するリスクが高まります。また、取引先や金融機関、投資家に対して虚偽の情報を提供していたことが明らかになれば、ビジネスパートナーとしての信頼を根底から失うことになります。

法的リスク

棚卸のごまかしは、その内容や程度によって各種の法的制裁を受ける可能性があります。特に税務上の問題と証券取引に関する問題は、企業にとって致命的なダメージとなり得ます。

税務調査において在庫の過少申告や架空計上が認定されると、本来の納税額との差額に加えて、過少申告加算税や無申告加算税が課されます。さらに、意図的な隠ぺいや仮装があったと判断されれば、最も重いペナルティである重加算税の対象となります。

上場企業の場合は、有価証券報告書への虚偽記載として金融商品取引法違反に問われる可能性があります。役員個人の責任が追及されるだけでなく、会社としても課徴金の支払いや上場廃止といった重大な処分を受けることがあります。

企業の信用失墜

棚卸のごまかしが外部に知られた場合、企業の社会的評価は急速に低下します。特に粉飾決算や脱税として報道されれば、その影響は取引先や顧客、金融機関、採用市場など広範囲に及びます。

取引先からは契約の見直しや取引停止を通告されるかもしれません。金融機関は融資の回収を急いだり、新規の借入れを断ったりする可能性があります。消費者からの信頼を失えば売上にも直結します。

失った信用を取り戻すには、長い年月と膨大なコストが必要です。場合によっては、信用回復を待たずに事業継続が困難になることも考えられます。

棚卸のごまかしを防ぐための実践的な対策

棚卸のごまかしは、適切な予防策を講じることで発生リスクを大幅に低減できます。重要なのは、一度きりの取り組みで終わらせず、継続的に改善を重ねていく姿勢です。

ここでは、多くの企業で効果を上げている4つの防止策を紹介します。

  • 2人1組での実地棚卸
  • 監査と内部統制の強化
  • 従業員教育と倫理規範の徹底
  • 在庫管理システムの導入

2人1組での実地棚卸

棚卸作業を複数人でおこなう体制は、不正防止の基本中の基本です。1人で作業を完結できる環境では、悪意のある人物が自由にデータを操作できてしまいます。

2人1組の体制では、1人が商品を数え上げ、もう1人が記録を担当します。お互いの作業を確認し合うことで、意図的な改ざんだけでなく、単純なカウントミスや記入漏れも防ぐことができます。作業完了後に役割を交代してダブルチェックをおこなえば、さらに精度は高まります。

注意すべき点として、同じペアで長期間作業を続けると馴れ合いが生じる恐れがあります。定期的にメンバーを入れ替えることで、緊張感を維持しながら相互牽制機能を保つことが大切です。

監査と内部統制の強化

組織全体として棚卸の正確性を担保するには、監査体制の整備と内部統制の強化が欠かせません。現場任せにするのではなく、経営層が主導して不正を許さない仕組みを作り上げる必要があります。

具体的には、内部監査部門による定期的なチェックや、外部の会計士・監査法人による監査を実施します。予告なしの抜き打ち棚卸も効果的です。また、在庫の受払いに関する承認フローを明確にし、1人の担当者に権限が集中しないよう職務を分離することも重要な対策となります。

監査をおこなう部門は、在庫管理の現場から独立した立場であることが求められます。現場との利害関係があると、問題を見逃したり報告をためらったりする恐れがあるためです。

従業員教育と倫理規範の徹底

制度やシステムを整えても、それを運用するのは人間です。従業員一人ひとりが棚卸の意義を理解し、不正行為の重大性を認識していなければ、防止策は十分に機能しません。

入社時の研修だけでなく、定期的に棚卸の重要性や正しい手順について教育をおこなうことが有効です。とくに在庫データの改ざんがどのような結果をもたらすか、過去の事例なども交えながら具体的に伝えることで、抑止効果が高まります。

会社として守るべき行動規範やコンプライアンス方針を明文化し、全従業員に周知することも大切です。「この会社では不正は絶対に許されない」という強いメッセージを経営トップが発信し続けることで、組織全体の意識が変わっていきます。

在庫管理システムの導入

ITシステムを活用することで、人為的な操作や改ざんの余地を減らすことができます。紙の帳票やエクセルによる手作業での管理では、データの書き換えが容易であり、誰がいつ変更したかの追跡も困難です。

在庫管理システムを導入すれば、バーコードやQRコードを使った正確なカウントが可能になり、入出庫の履歴は自動的に記録され、変更があれば誰がいつどのような操作をしたかがログとして残ります。不自然な動きがあればアラートを発する機能を持つシステムもあるので、必要なら機能面を検討して導入しましょう。

導入には一定のコストがかかりますが、棚卸作業の効率化や在庫精度の向上といったメリットも得られます。不正防止と業務改善の両面から投資効果を検討するとよいでしょう。

まとめ

棚卸のごまかしは、粉飾決算や脱税、横領の隠蔽など、さまざまな動機から引き起こされます。表面上は帳簿の数字をいじるだけの行為に見えますが、企業の財務報告を歪め、法的リスクを招き、社会的信用を損なうなど、その影響は広範囲に及びます。

こうした問題を防ぐためには、複数人での棚卸実施、監査体制の整備、従業員への継続的な教育、そしてITシステムの活用といった複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。いずれか一つの対策に頼るのではなく、重層的な防止策を構築することが求められます。

自社の在庫管理体制を今一度見直し、不正が入り込む隙のない仕組みづくりに取り組んでいきましょう。

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